ココナッツサブレ

小学校3年生ぐらいだったと思う。

友達の家に遊びに行った。

いや違う目的は遊びではなく、勉強だったと思う。

友達の名前はU君。お父さんはお医者さん。大きな家だった。

二人で勉強してたら、U君のお母さんがおやつをもってきてくれた。

それがなんと憧れのココナッツサブレであった。

しかも大量に皿の上に載っていた。

あの長細い箱の中身全部が目の前にあったと思う。


あの頃は我が家では甘いものは贅沢だった。

月に1度か2度、母が僕の大好物のおはぎを買ってくれた。

うれしくて、おいしくて、だいじに少しずつ食べた。

だから、目の前に出された大量のココナッツサブレにびっくりした。

もう勉強は手につかず、何度も手がそこに伸びて、

気がついたらほとんどを僕が食べていた。

U君はあまり食べなかった。少し呆れていたと思う。

僕はいやしい自分に内心はずかしかったが、

ココナッツサブレの誘惑に勝てなかった。


恥ずかしい気持ちを脇に置き、おやつを期待して、またU君の家に行った。

でもおやつは出てこなかった。

U君の家に行ったのはこれが最後、3度目はなかった。

孫の二人は甘いものをあまり食べない。

もういらない〜これきらい〜などと言う。

僕の時代とぜんぜん違うのだなと思っていると、

頭の中にこのココナッツサブレ事件が蘇った。

小学校3年生のときに経験した自分自身への恥ずかしさ。

今だに覚えてる。

我が事なのだが、小学生を侮ってはならないと思った。

ちゃんと覚えている。


彩雲→https://hyakka-saiun.com/