ふさわしさ

家の近くに長い石階段があって、

ときおり散歩がてら、その階段を上り下りしている。

小学生になったばかりのような女の子が、その階段を駆けて下りていく。

たったったたたーと小気味いいリズムで。

あのバランス感覚と勢いはもう私にはないなと思う。

もし女の子の真似をしたら、間違いなく転んで怪我をしてしまう。

生まれてまだ7〜8年の子に負けている。でも力はまだワシのほうがあるな。

と、考えたりする。まだ小学生に完全に負けるのは悔しいらしい。

 

私は小学生の頃、小さくてすばしこくて、

ごっこをしたら、誰も私を捕まえることはできなかった。

鬼が私を追い詰めても、右へ左へフェイントをかけスルリと交わした。

あの頃は体が思ったように動いた。

 

人間はないものねだりをする。

幼い頃は早く大人になりたかった。

歳を重ねた今は、もう一度あの頃に戻れたらなどと考える。

もし、不老長寿の薬ができて人間が死ななくなったら、きっと死にたい人が増える。

人間はそのときそのときに、ふさわしい生き方があると思うが、

そのときはそのふさわしい生き方に気づかない。

というか、若い頃はそういうことを考えることもない。

若い頃、「なにかいいことないかなーなにかいいことないかなー♭」

というフレーズを叫ぶような歌が流行った。

私の頭の中は、このフレーズがよくリフレーンしていた。

やりたかったことをもっと素直にチャレンジすればよかったな。

若い頃の濃密なエネルギーを無駄に発散していた。

もったいない。と、今思う。


今は、エネルギーは濃密ではなくなった。

もう若い頃のように発散しなくてもいい。

その分、意識は外側よりも内側に向かうことが多くなり、

自分が感じていることをじっくり考えたり、

湧いてくる喜怒哀楽の感情を味わったりしている。

今はけっこう、このときにふさわしい生き方をしているんではないかと思う。

 

東京で商品を仕入れてきた。
これからじっくりとつくるぞー