子どものころ、近所にマンガ専門の貸本屋が二軒あった。
父がマンガ好きで、僕は毎日のように借りに行かされた。
たしか、一泊二日で十円ぐらいだったと思う。
そんなわけで、僕もマンガばかり読むようになった。
そんな僕を心配したのか、母がマンガではない本を買ってきて、僕に読めと言った。
『家なき子』という本だった。
僕は、それを読んで泣いた。
「ああ、こういう本もいいもんだ」
そう思った。
でも、やっぱりマンガを読み続けた。
二十代のはじめ、無職になった。
それまで勤めていた会社を辞めたのは、なぜかゲップが止まらなくなったからだ。
汚い話ですいません。
これは本当の話なのだが、あとになって考えると、
「早く辞めろー」と、心が催促していたのだと思う。
本当は、会社を辞めたかった。
けれど、「こういう理由があるから辞めるんだ」と、自分を納得させられるものがなかった。
だから、ゲップのせいにしたのだと思う。
ずるい。
とはいえ、ゲップが止まらないというのは、本当に苦しかった。
会社を辞めたら、ゲップはピタッと止まった。
無職になり、しばらく家にこもった。
そのとき、なぜか急に、小説を読んでみようと思った。
本屋さんへ行き、選んだのは『燃えよ剣』。
司馬遼太郎さんが書いた、幕末の新選組副長・土方歳三を主人公にした小説。
そのあと、司馬遼太郎さんの本をほとんど読んだ。
夢中になった。
朝から晩まで読んだ。
それから、あまりマンガを読まなくなった。
「月に五冊以上、本を読め」
次に就職した会社の社長から言われた。
ビジネス本、自己啓発本、スピリチュアル本。
必死になって、いろいろな本を読んだ。
読書は、この世界には自分の知らないことが、まだまだたくさんあるのだと教えてくれた。
お金も時間もかかったけれど、この社長には感謝している。
残念ながら、その会社はもうない。
四十代になると、エンタメ小説ばかり読むようになった。
おもしろくて、勉強にもなる本がたくさんあった。
『燃えよ剣』から始まった僕の読書は、半世紀近くたった今も続いている。
で、最近、本屋さんへ行くと、吸い寄せられるようにマンガのコーナーへ立ち寄るようになった。
『ONE PIECE』
『薬屋のひとりごと』
『葬送のフリーレン』
読んでみたい。
きっと、夢中になると思う。
