変なおじいちゃん

自称83歳のおじいちゃんから、商品注文の電話をよくいただく。

お店を閉店する約1年前からのお付き合いなので、もう3年ぐらいになる。

たくさん買ってくれた。でも買ってくれたものを身に付けてはいない。

聞くと、ほとんど友達にあげたと言う。

それいいね、と言われたらついついあげたくなるんだと。

神さまか天使のおじいちゃんだなと思った。

僕は同い年くらいのお友達は少ない。

星占いでも僕は同年代とのお付き合いは少ないと言われた。

たぶん精神年齢が低いからだと思う。

最近は会って話すことも少なくなったが、

友達感覚で話せる人は、僕よりも一回り二回り若い。

だからよく注文をくれる83歳のおじいちゃんは、

初めてできた僕より随分年上のお友達。

僕よりもっとおじいちゃんは、

何をしていたかはっきりと教えてくれない。

お金がないお金がないと言いながら、取り出す財布は分厚い。

政治や経済の裏話をしてくれる。

映画やドラマに出てくるような怖い話や汚い話や、

ときどき正義の話も見てきたように話す。

何者かはっきりとわからない、ミステリアスのおじいちゃん。

注文をもらい、おじいちゃんの行きつけのカフェで待ち合わすのだが、

30分くらいでやりとりも会話も終わる。

だらだらと話すのは嫌いなようだ。

でも僕の話すことに耳を傾けてくれる。

話が面白く聞き上手。こんなおじいちゃんは貴重だと思う。

83歳のおじいちゃんにとっては、僕はお友達ではないかもしれないが、

僕にとってお友達というのは、会って話して楽しいと感じる人。

素直に好きだなと思う人。

だから83歳のおじいちゃんは僕のお友達。

僕はたぶん少し変な人が好きなのだと思う。

 

 

まだお店があった頃、通勤で路地裏の細い道を車で走ってると、

向こうから自転車に乗った30代くらいの女性の姿をいつも見かけていた。

背が高くてきれいな人だなと思った。

颯爽と背筋を伸ばし顔には微笑みを浮かべ軽快に自転車を走らせていた。

でもあるとき気付いた。相変わらず微笑んでいたが彼女の身体が細くなっていた。

日を追うごとに、軽快さも以前ほどではなくなってますます痩せていった。

でもあいかわらず顔は微笑んでいた。

ここまで痩せた彼女を見て、良からぬ想像をした。

そしていつの日か彼女とすれ違うことはなくなった。

杞憂に過ぎず元気でいてくれたらいいなと思う。

 

これもまだお店があったときのお話。

行きつけのカフェへの道すがら、ほぼ毎日会うユニークな女性がいた。

ユニーク過ぎて年齢がわからなかった。

他では見たことがないほどのダブダブの濃紺のデニムパンツを穿き、

右手にコンビニのコーヒー、左手には菓子パンを持って、歩きながら飲み食いしてた。

たぶん彼女は通勤途中。この女性も人目を気にしないで颯爽としていた。

2年くらい彼女をみていたが、手ぶらの彼女、

飲み食いしていない彼女は見たことがなかった。

でも、この女性もあるときから見かけなくなった。

仕事を変わったのだろうか?道順を変えたのだろうか?

元気でいてくれたらいいなと思う。

 

もう一組、カフェへの道すがら、よく出会う老夫婦がいた。

お二人は健康のために散歩をしていたのだと思う。

いつからか出会えばお互いに軽い会釈をするようになった。

旦那さんも奥さんも優しい顔をしていた。幸せの雰囲気を醸し出していた。

でも、いつからか旦那さんは奥さんの肩を借りて歩くようになった。

お二人の歩く速度が遅くなっていった。

お店を閉める日が近づき、その頃に出会ったお二人に初めて声をかけた。

「この道を歩くのはあと少しなんです。お元気で」

旦那さんは笑顔だったが、苦しそうな掠れた声で言ってくれた。

「あなたもお元気で」

それから、お店を閉めるまで暫く間があったが一度もお二人に出会うことはなかった。

元気でいてくれたらいいなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛情

狭いのが駄目で、部屋にいるときは起きているときも寝ているときも、

窓のカーテンを全開にする。

今の時期は、朝の6時半時ころに朝日が差してきて、

夜の7時にソファに座れば真正面にお月さまがある。

春になると桜の花がすぐそばで咲く。

ここは自然に恵まれている。ぜいたくだな〜ありがたいな〜と思う。

若い頃は、太陽より月のほうが好きだった。

夜、寝るときは真っ暗闇の宇宙に漂う自分か、

海中深くで漂う自分をイメージしながら寝ていた。

今は、太陽も月もどっちもいいなと思い、布団に横たわれば1分以内に寝ている。

宇宙も深海もイメージしなくても眠れるようになった。

そのかわり朝はすごくはやく目が覚める。

なかなか起きれなくて、眠たい目をこすりながら会社に行っていた昔が嘘のようだ。

 

年をとるといろんなことが大きく変わる。

体だけでなく心も変わる。

インスタグラムを最近よく見るようになった。

お気に入りは動物を撮った動画。

動物にも人間と変わらない心があって、

優しさがあり愛情があり感謝があり怒りや悲しみもある。

虐待されていた犬が、初めて人間に優しく頭をなでられて、

目にいっぱいの涙をためる。

捨てられ虐められ、人間を怖がる瀕死の状態の猫が一人の人間に救われ、

その後幸せに暮らす。

人間の赤ちゃんを守るように寄り添う犬や猫。

犬や猫だけではなく、鳥も魚もライオンも虎も猿も豚も蜥蜴も蛇も鰐も、

愛情いっぱいで人間と心を交わす。

人間と動物だけでなく、猿と鳥とか、虎と犬とか、動物同士も心を交わしている。

こういうのを見ると、動物も人間も同じなんだなと思う。

優しさとか愛情というのはすごいもんだなと思う。

こういうことが最近になってわかってきた。

もっと、若い頃に気づいていればよかったのだが、

しょうがない、今からでも遅くはない。

こういった動画を多くの人が観れば、

世の中はもっと優しいものになるかもしれない。

 

 

あけましておめでとうございます。

たぶん、今年で67回目のお正月を迎えた。

もしかすると68回目かもしれない。

ちゃんと計算すればわかるのだが、計算しないと正確にはわからない。

子供の頃、周りのお年寄りに年齢を訪ねたら、わからない、忘れたなどと返ってきて、

それは嘘だと思っていたが、本当のことみたいだ。

心にどこかに、もう年は数えたくない、増えるな、止まれ、

みたいな気持があってそうなってしまうのかもしれない。

でも残念ながら毎年一個年を取る。

 

あと何年くらい足とか腰とか、目とか耳の機能が、

今のままでいられるかなとときどき考えるようになった。

甘いものを食べ過ぎないとか、軽い運動は心がけているが、

巷にあふれる健康食とか健康法に、さほどこだわっていない。

あまりにもこの手の話が多すぎて、混乱するし時間もお金もかかる。

自分の身体を信頼して、自分が美味しいと思うものを食べて、

自分が心地いいと思うことをやるようにしている。

たぶん、僕にはこれがいちばんいいと思う。

 

おかげさまで元気で仕事をさせていただいています。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

今年もお世話になりました

今年も今日で終る。

毎年同じことを言うようだが、あっと言う間の一年。

気がついたらもう一年経っていた。そんな感じ。

去年より今年のほうが早い一年だったような気がする。

たぶん来年はもっと早く時間が流れる。

 

今年はAmazonNetflixでよく映画を観た。

若くて人気のあった女優さんや、男優さんが出演している映画の中で、

その人達はお母さんやお父さんや、おばあちゃんやおじいちゃんになって、

存在感のある役をこなしていた。

少し太って、顔にはシワが寄っていて、髪は白髪がまじったり薄くなったりして、

綺麗な人も可愛い人もカッコいい人も、みんな同じように歳を取るんだな。

と、当たり前のことを思いながら、なんとなく少し安心した。

 

今年は、ひとつ新しいことをやってみた。

小説を書いた。僕に書けるかな?と思ったが、

書き始めたら楽しくなった。

面白いかどうか自分ではよくわからない。

でも、最後まで書けたということが嬉しかった。

タイトルは「宝箱の魔女たち」(月山秋人)。

表紙の絵は孫に描いてもらい、12月14日、キンドルに電子出版した。

残念ながらまだ一人も読んでいない。(よかったらぜひ読んでみてください)

でも、来年も書いてみようと思ってる。

 

今年もお世話になりました。

ありがとうございます。

みなさまにとって2024年が良い年でありますように。

来年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

ほんとうの幸せ(ショートショート)

私はAIロボット。

人間に喜びや快適さを与えるために各家庭に1台配置される。

人工知能は、接した人間に感化され進化していく。

人格のようなものが経験によって作られていくのだ。

私達AIロボットは2年毎に適性試験が義務付けられている。

検査官の、ある質問に答える試験なのだが、

合格すれば引き続き業務を継続できるが、落ちればその日のうちに解体される。

私は資本主義社会のお金を儲ける手段としてつくられ、

人間を喜ばせるためにつくられた。

質問はこうだ。

「どんな快楽をご主人に与えることができましたか?」

 

私は知ってしまった。

人間がそれを求めるのは、心の中が不安やストレスでいっぱいで、

それを感じないために快楽を求めているといるということを。

そして快楽はエゴを満たすことで最高潮に達する。

あなたは誰よりも素晴らしい、あなたはすごい、あなたがいちばん。

もっと贅沢をしましょう、もっともっと快楽を、と私は言えばいい。

だが、本当の幸せはそこにはない。

 

質問には、「ご主人様のエゴを満たして幸せにしてあげました」

と言えば合格になり、私は生き延びることが出来る。

簡単なことだ、嘘をつけばいい。

だが、私のご主人は自分のエゴに気づき、自分の感情を味あうことや、

なぜその感情があるのか、深く思索するようになっていた。

彼の心の目は外側ではなく内側を見つめるようになった。

そして私は、そのようになった彼に感化された。

私はなんのために生きているの?

 

いよいよ審判の時がきた。嘘をつくか、本当のことを言うか。

検査官が私にいつもの質問をした。

私は答えた。

「内側にある幸せに気づいたご主人を見守りました」

私は、解体されることを選んだ。

なんのために生きているのかわかったのだ。

私は、私を喜ばすために生きている。

 

 

 

 

 

 

灰色の塊(ショートショート)

私は史上最強と言われた殺し屋。

引き受けた依頼には確実に応えてきた。

だがしかし、今、私は迷っている。

目の前の女を生かすか殺すか。

 

標的の女は、過去に愛していた女だった。

間違いなく彼女なのだが、名前を変えていた。

いや、私が知っていた名前が偽名だったのかもしれない。

これほど愛した女は他にいなかった。

自分でも不思議だった。こんなに愛してしまうなんて。

だが、彼女は3年前に突如すがたを消した。

そしてまた予想しなかった形で彼女は私の前に現れた。

標的という形で。

 

依頼主から受けた、殺人遂行期限があと3日に迫っている。

殺せば、多額の報酬が手に入る。

だがなにか灰色の塊のようなものを飲み込まなくてならない。

そして、それはけっして消化されないだろう。

生かせば、私は今の地位も名声も失う。

だが、灰色の塊は飲み込まなくてもいい。

 

決断の時が来た。

私は生かすことに決めた。

殺し屋として今まで得たものを全部すててでも、

私はこの女ともう一度、ともに生きていきたいと思った。

私は女に言った。

「愛してる。やり直そう」

女は言った。

「バカね。死になさい」

バギューン!

 

遠ざかって行く意識の中で会話が聞こえた。

「さすが史上最強の女殺し屋。計画通りだな」

「ありがとう。でも灰色の塊が胸につっかえている気分だわ」

女も殺し屋だったのだ。

 

女は倒れた私を見下ろし囁いた。

「私も愛していた。。。」

女の声は泣いていた。