まだお店があった頃、通勤で路地裏の細い道を車で走ってると、
向こうから自転車に乗った30代くらいの女性の姿をいつも見かけていた。
背が高くてきれいな人だなと思った。
颯爽と背筋を伸ばし顔には微笑みを浮かべ軽快に自転車を走らせていた。
でもあるとき気付いた。相変わらず微笑んでいたが彼女の身体が細くなっていた。
日を追うごとに、軽快さも以前ほどではなくなってますます痩せていった。
でもあいかわらず顔は微笑んでいた。
ここまで痩せた彼女を見て、良からぬ想像をした。
そしていつの日か彼女とすれ違うことはなくなった。
杞憂に過ぎず元気でいてくれたらいいなと思う。
これもまだお店があったときのお話。
行きつけのカフェへの道すがら、ほぼ毎日会うユニークな女性がいた。
ユニーク過ぎて年齢がわからなかった。
他では見たことがないほどのダブダブの濃紺のデニムパンツを穿き、
右手にコンビニのコーヒー、左手には菓子パンを持って、歩きながら飲み食いしてた。
たぶん彼女は通勤途中。この女性も人目を気にしないで颯爽としていた。
2年くらい彼女をみていたが、手ぶらの彼女、
飲み食いしていない彼女は見たことがなかった。
でも、この女性もあるときから見かけなくなった。
仕事を変わったのだろうか?道順を変えたのだろうか?
元気でいてくれたらいいなと思う。
もう一組、カフェへの道すがら、よく出会う老夫婦がいた。
お二人は健康のために散歩をしていたのだと思う。
いつからか出会えばお互いに軽い会釈をするようになった。
旦那さんも奥さんも優しい顔をしていた。幸せの雰囲気を醸し出していた。
でも、いつからか旦那さんは奥さんの肩を借りて歩くようになった。
お二人の歩く速度が遅くなっていった。
お店を閉める日が近づき、その頃に出会ったお二人に初めて声をかけた。
「この道を歩くのはあと少しなんです。お元気で」
旦那さんは笑顔だったが、苦しそうな掠れた声で言ってくれた。
「あなたもお元気で」
それから、お店を閉めるまで暫く間があったが一度もお二人に出会うことはなかった。
元気でいてくれたらいいなと思う。