あっくん(ショートショート)

あっくんは浅はかで間抜けな性格だ。

あっくんは大人たちが作ったヒーローが本当にいると思っている。

サンタクロースや、ウルトラマンや、戦隊ヒーローたちだ。

あっくんの憧れは忍者ヒーローの赤影。

母親にねだり、赤影の衣装をつくってもらい、

正義の味方になりきり、町を巡回し、悪を撲滅するのが自分の任務だと思っている。

そして、喧嘩やいじめを目撃すると、

「赤影見参!」と叫びそれをやめさせようとする。

たとえばこんなことがあった。

あっくんは、子犬をいじめていた小学生に向かって、

いつもの通り叫んで、やめさせようとした。

だが、犬はいじめられていたのではなく、仲良くじゃれ合っていただけだ。

こんなことが何度もあったのだが、あっくんは今日も赤影になって町の平和を守ろうと

している。

ある日、あっくんがびっくりしたことがあった。

いつも通り町を巡回していると、

夜の公園でイモムシみたいに這う女性がいた。

ピンクの戦隊衣装を着て、

「じりっじりっじりっ」と呟きながら這いつくばって前に進んでいる。

彼女はおもむろに立ち上がると、

今度は近くの樹の枝に回し蹴りをし、幹に正拳突きをする。

「ばきっ!どかっ!ずん!」と小気味いい音が響く。

すると突然、黒い衣装を着た痩せた男が、

「ひぃーひぃー」と叫びながら彼女に向かって行った。

あっくんは助けなければと思ったが、その必要はなかった。

ピンクの衣装をきたヒーローは、回転回し蹴り一閃で黒衣装の男をあっけなく倒した。

かっこいい〜。

そう思ったあっくんは彼女の真似をした。

毎日公園へ行き、「じりっじりっ」と呟き、

「ばきっ!どかっ!ずん!」と自ら叫んでトレーニングを重ね、

「現われろ!悪!」と叫ぶ。

だが、そのようなものは現れない。

あっくんがあのとき見たのは、戦隊ヒーロー劇の練習だったのだが、

あっくんはそれを知らない。

あっくんのこの行動は町の噂になり、多くの人が知ることになった。

すると、何人かが言った。

「俺が悪になる」。

そして、あっくんがトレーニングをしていると、数人の黒の衣装を着たものが、

「ひぃーひぃー」と叫びながら、あっくんに襲いかかってきた。

「来たか!悪者!」と甲高い声を出し、あっくんは身構え、

頭の中のイメージ通りに「ばきっ!どかっ!ずん!」唱え、

回転回し蹴りと、正拳突きを黒衣装に食らわした。

黒衣装の男たちは口々に「やられた〜」と叫び、地面にくずおれた。

あっくんはガッツポーズをして、

「ふふふふっ俺の名は赤影!忘れるな!」と黒衣装に向かって叫び、

身を翻し颯爽と去っていった。

「上手くいったな。あっくんがなりきっている」

黒衣装の数人が囁きあった。

実際はあっくんの蹴りも突きも黒衣装に届いていない。

誰一人ダメージを負っていない。

あっくんは浅はかで間抜けな性格だ。

だが、あっくんは町の人から愛されている。