量子力学ーほんと?その①(ショートショート)

変な女の子が前から歩いてくる。

優しそうな顔になったり、

怒っている顔になったり、

泣きそうな顔になったり、

いろんな表情をつくって歩いてくる。

それを観て僕は少し怖くなった。

たぶん、変顔の練習でもしているのだろう。

しかし、なんのために変顔練習を?

変顔コンテストでもあるのかな?

それとも彼女は役者さんなのかな?

優しい顔のときの彼女は綺麗だった。

僕は彼女から目が離せなくなり、

声をかけたくなり、

彼女に確かめることにした。

「なんで色んな表情で歩いてるの?」

「私の心は複雑なのです。色んな自分がいます」

「人に親切にしたい自分。人を傷つけたい自分。明るくて元気な自分。寂しくてしょうがない自分」

「どれが本当の自分なのか確かめたかった」

「で?どれが本当の自分だった?」

「どうやらたったひとつの自分はないようです」

「どの自分になっても、これが私だと思えます」

「私は変なのでしょうか?」

「いいえそれが普通ですよ」

「神様はそういうふうに世界をつくりました」

 

彼女は優しい顔つきで答えてくれた。

僕は、量子力学を研究している。

量子の動きは不確定で、ルールもなく、これまでの科学を否定してしまう。

つまり、量子は人間のように様々な顔をもっている。

でも、そんな量子があることに同じ反応をする。

量子は人間の意志に応じるのだ。

量子を測定しようとすると、量子がひとつの顔になる。

 

人間も同じ。

他人からどんな人なのかを測定された瞬間に、色んな顔がひとつになる。

測定しようとした人の希望に合わせる形で。

「ほんと?」