変な女の子が前から歩いてくる。
優しそうな顔になったり、
怒っている顔になったり、
泣きそうな顔になったり、
いろんな表情をつくって歩いてくる。
それを観て僕は少し怖くなった。
たぶん、変顔の練習でもしているのだろう。
しかし、なんのために変顔練習を?
変顔コンテストでもあるのかな?
それとも彼女は役者さんなのかな?
優しい顔のときの彼女は綺麗だった。
僕は彼女から目が離せなくなり、
声をかけたくなり、
彼女に確かめることにした。
「なんで色んな表情で歩いてるの?」
「私の心は複雑なのです。色んな自分がいます」
「人に親切にしたい自分。人を傷つけたい自分。明るくて元気な自分。寂しくてしょうがない自分」
「どれが本当の自分なのか確かめたかった」
「で?どれが本当の自分だった?」
「どうやらたったひとつの自分はないようです」
「どの自分になっても、これが私だと思えます」
「私は変なのでしょうか?」
「いいえそれが普通ですよ」
「神様はそういうふうに世界をつくりました」
彼女は優しい顔つきで答えてくれた。
僕は、量子力学を研究している。
量子の動きは不確定で、ルールもなく、これまでの科学を否定してしまう。
つまり、量子は人間のように様々な顔をもっている。
でも、そんな量子があることに同じ反応をする。
量子は人間の意志に応じるのだ。
量子を測定しようとすると、量子がひとつの顔になる。
人間も同じ。
他人からどんな人なのかを測定された瞬間に、色んな顔がひとつになる。
測定しようとした人の希望に合わせる形で。
「ほんと?」