おぼえられない人

僕は人の顔と名前、そして道がなかなか覚えられない。

ずっとお店をやっているのに、お客さんの顔と名前が覚えられないのは問題がある。

だから接客は苦手だ。

ときどき道を歩いていると、挨拶をされたり、話しかけられたりするのだが、

「誰だっけ?」ということがよくある。ほんとうにごめんなさい。

一昨年閉店した山形のお店は約14年間、月に1、2度通った。

往きは迷わずに行けたのだが、帰りはとうとう閉店する日まで迷った。

一方通行が多く、道路工事も頻繁で、道が変わったりしたので。

というのが言い訳だが、

それにしても14年間も迷うというのは、やはり僕はどこかおかしいと思う。

学生の頃は試験前日の一夜漬けが得意だった。

まあまあの成績だったが、試験の翌日にはほとんど忘れた。

友人に言われたことがある。

「お前は覚えるのは早いが、忘れるのはもっと早い」

僕は酉年、3歩歩けば忘れてしまう。

でも、もちろんずっと覚えていることがある。

忘れたくても忘れられないこともある。

 

たぶん、頭だけで覚えたことはすぐに忘れる。

心が動いたことはなかなか忘れない。

心が躍るとか、心に突き刺さるとか、心があったまるとか、心が通じるとか。

どきどき、ぐさっ、じーん、ほのぼの、ほんわか~、としたら心が動いている。

なので、人の顔と名前を覚えるために、

まずは嫌がられない範囲で相手に興味を持つことから始めようと思う。

もしかしたら心が躍るかもしれない。心が通じるかも知れない。ので。

 

あとは道だな。道を覚えるにはどうしたらいい?

これはまったく自信がない。

彩雲(さいうん)