半端星(ショートショート)

態度や顔つきがコロコロ変わる女性がいる。

今日は優しいかと思えば、次の日は冷たい、

笑っていると思えば、瞬間に怒った顔に変わる。

人間にはこういうところはあるにはあるが、

それにしても極端すぎる。

いったい彼女の本当の姿は?

彼女はときどき、空を見て泣いている。

でも泣いた顔も怒った顔も笑った顔も彼女はとてもいい女だ。

 

しらずしらずにうちに、

俺は彼女のことを好きになっていた。

いろいろな顔を持つ、彼女のすべてが好きになっていた。

告白しようと思い、彼女を飲みに誘った。

バーのカウンターに並んで座り、

俺は聞いてみた。

「色んな顔をもってるね」

「それもあんたの魅力だけど」

彼女は少し顔を赤らめ、

とつとつと自分のことを話しだした。

「私の生まれた星は【半端星】と呼ばれているの」

「生まれたときは、みんな半端」

「半端なままでは幸せにはなれないので、成人するとこの地球にきて修行を積むの」

「修行の目的は極善か極悪かどちらかになること」

「半端でなくなったら故郷に帰ることができる」

「だから善と悪、私にはどっちが向いているのか、いろいろ試していたの」

「でも、私は両方ある。どちかを選ぶことなんて出来なかった」

「このままでは半端なままで、故郷に帰れない」

 

宇宙でいちばん忌み嫌われるのは、どっちつかずの半端な存在らしい。

そして、地球はその半端な存在である地球人が暮らす星。

反面教師、修行の場としてぴったりということだ。

ふつうは極善を目指すと思うが、じつはどちらでも同じことだ。

逆もまた真なり、極まれば反転さすこともできる。

極善は極悪に、極悪は極善になれる。

表裏一体ってやつだ。

 

俺は彼女に想いを伝えた。

「俺と付き合ってくれ。半端でないものにしてやる」

「はい。喜んで」と彼女は言った。

地球人にも半端でないやつもいる。俺は周りからは最悪な人間と呼ばれている。

つまり。極悪な人間だ。

彼女を悪一色に染めてやる。

俺といるときだけ極善の可愛い女になればいい。

俺も彼女といるときだけは最善の優しい男になってやる。