母の言葉

子供の頃はこんな事を思っていた。

自分たち地球人は虫かごのようなものに入れられて、

誰かに、たぶん神様的な人たち(?)か、

宇宙人的な人たち(?)に、いつも観察されている。

だから品行方正に、清廉潔白に、馬鹿正直に生きねばならない。

こんなことを本気で子供の僕は思っていた。

もちろん守れるはずがなく、

悪いことをするときは背を丸め、人目を避けるように、怖々とそれをした。

 

こんなことを思っていたのは、母の言葉が原因だ。

「お天道様は全てお見通しじゃ」

「ウソはつけんのんで」

「悪いことをしたらバチがあたるんで」

とても道徳的で、子供のしつけとしてはいいのかもしれないが、

お天道様の意に沿わないことをしてしまったら、罪悪感と恐怖心がやってくる。

だから、頭のなかで母に反論した。

「お天道様は謝って反省すればゆるしてくれるんでー」

 

もうひとつ、母がよく言っていた言葉がある。

「虫を殺したら、来世は虫になるんで」

で、僕は今でも虫が殺せない。

家の中で虫に遭遇したら、ティッシュかペットボトルで捕獲し、庭に逃してやる。

 

でも、私は知っている。

母はゴキブリホイホイで捕獲した数多のゴキブリをあの世に送っていた。