帰郷

おっーとっとぉーととととっぉーとっとぉードカッ!!!

こんな感じで、生まれて初めて顔面から地面に落ちてしまった。

アスファルトに舗装された歩道を歩いていて、なにか小さな出っ張りにつんのめった。

これまでなら1度目か2度目のつんのめりで、体勢をたてなおすことが出来た。

でも、この日はだめだった。

3度つんのめり、結局僕の顔面は何の防御もなくそのまま地面に激突した。

頭の中に、ゴワァーンゴワァーンと音が鳴り響いた。

意識ははっきりしていたが、しばらく動けなかった。

頭の中が静かになると動けるようになった。

近くにいた男性二人が駆けつけて来てくれて、

「大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?」と心配してくれた。

「大丈夫です。救急車は呼ばないでください」と言いながら立ち上がった。

顔面からかなりの血が出ていた。赤いものが服に付き、道に落ちていた。

一人の男性が近くのお店でウエットティッシュとペットボトルの水を買ってくれて、

「これで顔の血を綺麗にして」と手渡してくれた。

人って優しいんだなと思った。少し感動した。

「頭を強く打ったと思うので病院に行ったほうがいいですよ」と最後まで心配してくれた。

「ありがとうございました」と何度もお礼を言ってその場を立ち去った。

あれだけ血が出たのに、出血はすぐに止まった。

でも、顔には数か所の打撲痕と擦り傷があった。

ヒリヒリして痛かったが我慢して歩いた。

 

1年半振りに墓参りのために帰郷し、お墓の近くの花屋さんで花を買って、

お墓に向かって歩いていたときに、この事故は起こった。

タクシーでホテルまで帰って、お墓参りは明日にしようかどうか考えたが、

結局予定通りに約20分ほどゆるい坂を上って、無事お墓に着いた。

「バチが当たったー」とご先祖さまに言い、花をお供えした。

バチがあたるようなことを最近はしていないと思ったが、

過去を振り返るといくらでもあるな、そう思って、やっぱバチだと思うことにした。

翌日、顔が腫れるなと思っていたが、そうでもなかった。

ただ、打ったところと擦ったところ、オデコと鼻筋と鼻の下あたりは、赤かった。

顔の真ん中の縦一直線が赤くなり、かさぶたをつくり始めている。

鏡をみるとユーモラスで笑ってしまった。

でも、少し恥ずかしかったが、人通りの多いアーケード街を歩いた。

大人はチラッと僕を見てすぐに目を背けてくれるが、

子どもはずっと見る。ニコッと笑うと、何人かが笑い返してくれた。

 

昔、ある有名なタレントがバイクで転倒事故を起こし、

しばらく入院し回復したあと、テレビでこんなことを言っていた。

「あのバイク事故のあとから絵が描けるようになった。それまではまったく描けなかった」

顔面から落ちるような転倒をしたあと、お墓に向かう道で、

僕も絵が描けるようにならないかな、と考えていた。

残念ながら、僕には変化がなかった。

 

ホテルから歩いて3分のところにある公園。毎朝、傍にあるコーヒーショップに。

 

原爆ドーム平和公園は人がいっぱいだった。

 


 

 

 

いちばんのごちそう(ショートショート)

一匹のカエルが言った。

「俺の大好物はなんといってもハエだ。あの香ばしさがなんともいえない」

もう一匹のカエルは言った。

「おいらはなんといってもミミズだ。あのジャリジャリ感と土臭さがたまんねぇ」

 

宇宙に無数にある星たち。

その中には生命体が住む星がたくさんある。

大昔、こんなことがあった。

ハエ星人が地球を観察に来てこう言った。

「なかなかいい環境だ。将来ここを別荘地にしよう」

そうして、ハエ星人は自分たちのミニチュアを、地球の観察のために配置した。

それが、今、人間をわずらわせるハエとよばれている生き物だ。

地球がいい環境というのは、その他の星人たちに知れ渡った。

そしてハエ星人とおなじように自分たちのミニチュアを地球に置いていった。

つまり、地球上の虫という虫はすべて、宇宙人と生態を同じにするミニチュアだ。

 

ハエ星人が、地球を映し出すモニターを観ている。

なんとカエルに自分達のミニチュアが食べられている。

怒りに燃えたハエ星人は、地球にやってきて、

ハエが大好物なカエルをことごとく殺戮した。

ハエを食べないカエルは難を逃れることが出来たが、

ミミズが好物なカエルはミミズ星人にいずれ殺されるだろう。

 

さて、ここはカエル星の地球観察モニター室。

ハエ星人の振る舞いをつぶさに観ていた怒りに震えるカエル星人は、

地球に報復にやってきて、ハエというハエを殺した。

次はそれを観ていたハエ星人の番だ。

ハエやカエルやミミズだけではない。

クモもムカデもカマキリもゴキブリも殺戮し合った。

地球に住むミニチュア星人は死んでも死んでも補充されるので、

これらの戦いは果てしなく続いている。

 

ある日、ハエ星人がミニチュアゴキブリを襲撃した。

ゴキブリは次々に殺され、最後の1匹になり、ハエ星人に怒りをぶちまけた。

わしの仲間は地球でいちばん殺されている。

中でも人間というやつらはわしらを忌み嫌い、みつけたら殺そうとする。

他のやつらはわしらを食べるために、つまり生きるために殺すが、

人間は汚い怖い嫌いという理由だけで、わしらを殺そうとする。

プシューしたり、ネバネバホイホイしたり、バシッペシャにしたり、

残酷極まりないやりかたで、わしらの息の根を止めにかかる。

ハエ星人よ、お前たちのミニチュアもさんざん人間に殺されたではないか。

なのになぜ最初に人間どもを殺そうとしないんだ!

 

ゴキブリの最後の1匹を殺したハエ星人が言った。

「バカめ、いちばんのごちそうは、最後に、ゆっくりと、味わってじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おばあちゃんと孫娘(ショートショート)

あたしはおばあちゃんの孫娘。

おばあちゃんのことが大好き。

すごく優しいから。

そんなおばあちゃんの秘密を知ってしまった。

おばあちゃんが電話で誰かに話しているのを偶然聞いた。

「私、あと一年しか生きられないみたい」

まるで他人事のように言っていたので、冗談かと思った。

心配で、確かめた。

「あばあちゃんあと1年で死ぬの?」

おばあちゃんは困ったような顔をしていたが、

やがて、にっこりと微笑んで、こう言った。

「うん。そうなの。天国に呼ばれちゃった」

「これは私たち二人の秘密ね」

「あのね、あなたにお願いがあるの」

「最後に本当にしたいことを思いっきりして天国に行きたいの」

「夏休みの間、おばあちゃんにつきあってくれない?」

あたしはOKした。

夏休みは始まったばかり。あと30日ある。

 

初めの10日間。

おばあちゃんと一緒に絵を描いた。

あたしはおばあちゃんの似顔絵を描き、

顔に浮かぶシミやシワはぜんぶ取ってあげた。

おばあちゃんも1枚の絵を描きあげた。

どこだろう。地平線がバックにあって、家族6人が描かれていた。

「右から3番目が私よ」

おばあちゃんの幼い頃の家族の絵。

そこは、おばあちゃんが3歳まで暮らした北海道の小さな町だった。

横一列に家族みんなが手をつなぎ、みんな幸せそうだった。

おばあちゃんは言った。

「いくつになっても、小さい頃の私がどこかにいるのよ」


次の10日間。

「おばあちゃんになっちゃったけど、困ったことに心は若いまんまなの」

「あなたの好きなことを私もやってみたい」

私は少しびっくりした。

おばあちゃんと私は、世界がまったく違うと思っていた。

でも、そうじゃないみたい。

あたしは大好きな俳優が出る映画や、

大好きな歌手のコンサートにおばあちゃんと一緒に行った。

どちらもラブストーリーにおばあちゃんは目をウルウルさせていた。

それから、イケメンにうっとり見とれていた。

あたしたちとおんなじだ。

おばあちゃんは言った。

「いくつになっても、恋はいいものね」

 

最後の10日間。

おばあちゃんと旅行に行った。

あたしもおばあちゃんもまだ行ったことがない、青い海沖縄。

小さな島のコテージに泊り、

毎日、海岸を散歩した。

水平線から昇るオレンジ色の朝日を二人で観た。

群青色の海に広がる大きくて真っ赤な夕焼けも綺麗だった。

隣のおばあちゃんの顔がうっすらと赤く染まっていた。

おばあちゃんは言った。

「もう天国にいるみたい・・・」

 

楽しかった夏休みが終わった。

一緒にいる間、おばあちゃんの病気が嘘のように思えたが、

今、おばあちゃんは病院のベッドの上にいる。

もう、あたしたちの秘密は秘密でなくなっていた。

「最後に、いちばんしたかったことをしたい」と、

おばあちゃんはあたしを優しい目で見つめそう言った。

あたしはこっくり頷いた。

おばあちゃんは、ベッドに横たわったまま、両手をあたしの方へ差し伸べ、

あたしの名前を優しく呼んだ。

近づくと、あたしはおばあちゃんにギュッと抱きしめられた。

暖かった。おばあちゃんの優しさが伝わってきて、涙がでてきた。

おばあちゃんは私の耳元で囁いた。
「ありがとう。ほんとに楽しかった。。。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仏教のこと

ずいぶん長いこと、このブログを書いている。

何人の人が見てくれたのかわからない。

身近の人が見たよと言ってくれたことがあるので、

ゼロではないが、多分ほとんど見られることのないブログだと思う。

ブログというものが何を書けばいいのかよくわからなくて、

初期の頃は彩雲らしく仏教のことを書いた。

そのうちそこから離れ自分の体験や思うことを書き、

最近はショートショートの物語まで載せるようになった。

何でも書いていい自由帳みたいだ。

でも仏教のこともちゃんと書いている。

ぜひ↓ここをみてください。

【PC】

仏教についてー歴史と教え - 彩雲(さいうん)

仏教美術について - 彩雲(さいうん)

スマホ

仏教についてーまとめ - 彩雲(さいうん)

あっくん(ショートショート)

あっくんは浅はかで間抜けな性格だ。

あっくんは大人たちが作ったヒーローが本当にいると思っている。

サンタクロースや、ウルトラマンや、戦隊ヒーローたちだ。

あっくんの憧れは忍者ヒーローの赤影。

母親にねだり、赤影の衣装をつくってもらい、

正義の味方になりきり、町を巡回し、悪を撲滅するのが自分の任務だと思っている。

そして、喧嘩やいじめを目撃すると、

「赤影見参!」と叫びそれをやめさせようとする。

たとえばこんなことがあった。

あっくんは、子犬をいじめていた小学生に向かって、

いつもの通り叫んで、やめさせようとした。

だが、犬はいじめられていたのではなく、仲良くじゃれ合っていただけだ。

こんなことが何度もあったのだが、あっくんは今日も赤影になって町の平和を守ろうと

している。

ある日、あっくんがびっくりしたことがあった。

いつも通り町を巡回していると、

夜の公園でイモムシみたいに這う女性がいた。

ピンクの戦隊衣装を着て、

「じりっじりっじりっ」と呟きながら這いつくばって前に進んでいる。

彼女はおもむろに立ち上がると、

今度は近くの樹の枝に回し蹴りをし、幹に正拳突きをする。

「ばきっ!どかっ!ずん!」と小気味いい音が響く。

すると突然、黒い衣装を着た痩せた男が、

「ひぃーひぃー」と叫びながら彼女に向かって行った。

あっくんは助けなければと思ったが、その必要はなかった。

ピンクの衣装をきたヒーローは、回転回し蹴り一閃で黒衣装の男をあっけなく倒した。

かっこいい〜。

そう思ったあっくんは彼女の真似をした。

毎日公園へ行き、「じりっじりっ」と呟き、

「ばきっ!どかっ!ずん!」と自ら叫んでトレーニングを重ね、

「現われろ!悪!」と叫ぶ。

だが、そのようなものは現れない。

あっくんがあのとき見たのは、戦隊ヒーロー劇の練習だったのだが、

あっくんはそれを知らない。

あっくんのこの行動は町の噂になり、多くの人が知ることになった。

すると、何人かが言った。

「俺が悪になる」。

そして、あっくんがトレーニングをしていると、数人の黒の衣装を着たものが、

「ひぃーひぃー」と叫びながら、あっくんに襲いかかってきた。

「来たか!悪者!」と甲高い声を出し、あっくんは身構え、

頭の中のイメージ通りに「ばきっ!どかっ!ずん!」唱え、

回転回し蹴りと、正拳突きを黒衣装に食らわした。

黒衣装の男たちは口々に「やられた〜」と叫び、地面にくずおれた。

あっくんはガッツポーズをして、

「ふふふふっ俺の名は赤影!忘れるな!」と黒衣装に向かって叫び、

身を翻し颯爽と去っていった。

「上手くいったな。あっくんがなりきっている」

黒衣装の数人が囁きあった。

実際はあっくんの蹴りも突きも黒衣装に届いていない。

誰一人ダメージを負っていない。

あっくんは浅はかで間抜けな性格だ。

だが、あっくんは町の人から愛されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

誕生日おめでとう

部屋の本棚の最上階と屋上に招福お守りグッズを飾っている。

龍もいるし、観音さまも、お地蔵さんもいる。

布袋さんも、達磨さんも、犬猫亀、狸もいる。

人からいただいたものもあるが、ほとんどは自分で買った。

厳かさより、可愛さとか面白さとか優しさを感じるものが好きで、

いつのまにかけっこう集まった。

 

屋上にはお釈迦様のほっぺにキスをするピンクのブタもいる。

ピンクのブタは、耳に真珠を模したピアスをしていて、

これはだいぶ前に娘から誕生日プレゼントにもらった「豚の耳に真珠」。

可愛くて面白いなと思ったが、どちらかと言えば、

「馬の耳に念仏」のほうが僕に合ってるな、と思った。

でも、お釈迦様にキスをするピンクブタはけっこう気に入っている。

 

なんだか気恥ずかしい気持ちがあるのか、

昔から、あまり誕生日プレゼントをもらったりあげたりする習慣はない。

人からいただいた誕生日プレゼントでまだ手元にあるのは、

たぶんこれだけだと思う。

せめて、誕生日を覚えているお世話になった人たちや好きな人たちに、

想いだけでも伝えようと、招福お守りグッズに向かって言っている。

「誕生日おめでとう。〇〇さんにいいことがありますように」。

ひそやかにこんなことをやっている。