あたしはおばあちゃんの孫娘。
おばあちゃんのことが大好き。
すごく優しいから。
そんなおばあちゃんの秘密を知ってしまった。
おばあちゃんが電話で誰かに話しているのを偶然聞いた。
「私、あと一年しか生きられないみたい」
まるで他人事のように言っていたので、冗談かと思った。
心配で、確かめた。
「あばあちゃんあと1年で死ぬの?」
おばあちゃんは困ったような顔をしていたが、
やがて、にっこりと微笑んで、こう言った。
「うん。そうなの。天国に呼ばれちゃった」
「これは私たち二人の秘密ね」
「あのね、あなたにお願いがあるの」
「最後に本当にしたいことを思いっきりして天国に行きたいの」
「夏休みの間、おばあちゃんにつきあってくれない?」
あたしはOKした。
夏休みは始まったばかり。あと30日ある。
初めの10日間。
おばあちゃんと一緒に絵を描いた。
あたしはおばあちゃんの似顔絵を描き、
顔に浮かぶシミやシワはぜんぶ取ってあげた。
おばあちゃんも1枚の絵を描きあげた。
どこだろう。地平線がバックにあって、家族6人が描かれていた。
「右から3番目が私よ」
おばあちゃんの幼い頃の家族の絵。
そこは、おばあちゃんが3歳まで暮らした北海道の小さな町だった。
横一列に家族みんなが手をつなぎ、みんな幸せそうだった。
おばあちゃんは言った。
「いくつになっても、小さい頃の私がどこかにいるのよ」
次の10日間。
「おばあちゃんになっちゃったけど、困ったことに心は若いまんまなの」
「あなたの好きなことを私もやってみたい」
私は少しびっくりした。
おばあちゃんと私は、世界がまったく違うと思っていた。
でも、そうじゃないみたい。
あたしは大好きな俳優が出る映画や、
大好きな歌手のコンサートにおばあちゃんと一緒に行った。
どちらもラブストーリーにおばあちゃんは目をウルウルさせていた。
それから、イケメンにうっとり見とれていた。
あたしたちとおんなじだ。
おばあちゃんは言った。
「いくつになっても、恋はいいものね」
最後の10日間。
おばあちゃんと旅行に行った。
あたしもおばあちゃんもまだ行ったことがない、青い海沖縄。
小さな島のコテージに泊り、
毎日、海岸を散歩した。
水平線から昇るオレンジ色の朝日を二人で観た。
群青色の海に広がる大きくて真っ赤な夕焼けも綺麗だった。
隣のおばあちゃんの顔がうっすらと赤く染まっていた。
おばあちゃんは言った。
「もう天国にいるみたい・・・」
楽しかった夏休みが終わった。
一緒にいる間、おばあちゃんの病気が嘘のように思えたが、
今、おばあちゃんは病院のベッドの上にいる。
もう、あたしたちの秘密は秘密でなくなっていた。
「最後に、いちばんしたかったことをしたい」と、
おばあちゃんはあたしを優しい目で見つめそう言った。
あたしはこっくり頷いた。
おばあちゃんは、ベッドに横たわったまま、両手をあたしの方へ差し伸べ、
あたしの名前を優しく呼んだ。
近づくと、あたしはおばあちゃんにギュッと抱きしめられた。
暖かった。おばあちゃんの優しさが伝わってきて、涙がでてきた。
おばあちゃんは私の耳元で囁いた。
「ありがとう。ほんとに楽しかった。。。」