灰色の塊(ショートショート)

私は史上最強と言われた殺し屋。

引き受けた依頼には確実に応えてきた。

だがしかし、今、私は迷っている。

目の前の女を生かすか殺すか。

 

標的の女は、過去に愛していた女だった。

間違いなく彼女なのだが、名前を変えていた。

いや、私が知っていた名前が偽名だったのかもしれない。

これほど愛した女は他にいなかった。

自分でも不思議だった。こんなに愛してしまうなんて。

だが、彼女は3年前に突如すがたを消した。

そしてまた予想しなかった形で彼女は私の前に現れた。

標的という形で。

 

依頼主から受けた、殺人遂行期限があと3日に迫っている。

殺せば、多額の報酬が手に入る。

だがなにか灰色の塊のようなものを飲み込まなくてならない。

そして、それはけっして消化されないだろう。

生かせば、私は今の地位も名声も失う。

だが、灰色の塊は飲み込まなくてもいい。

 

決断の時が来た。

私は生かすことに決めた。

殺し屋として今まで得たものを全部すててでも、

私はこの女ともう一度、ともに生きていきたいと思った。

私は女に言った。

「愛してる。やり直そう」

女は言った。

「バカね。死になさい」

バギューン!

 

遠ざかって行く意識の中で会話が聞こえた。

「さすが史上最強の女殺し屋。計画通りだな」

「ありがとう。でも灰色の塊が胸につっかえている気分だわ」

女も殺し屋だったのだ。

 

女は倒れた私を見下ろし囁いた。

「私も愛していた。。。」

女の声は泣いていた。