Nさんのこと

約20年前に、

あるセミナーでNさんに偶然出会って、はじめて宝石を間近に見た。

Nさんは日本に住んでいたが、

スリランカのラトナプラの鉱山を所有していて、

宝石の採掘をするためにそこにも自宅があった。

ラトナプラはサファイヤ、ルビー、キャッツアイ、

スピネル、トルマリンなど、

色々な宝石が産出される世界的に名高いところ。

日本人でラトナプラの宝石鉱山を所有しているのは

私だけと彼は言っていた。

シンガポールにも彼の宝石販売の会社があり、

マルチリンガルの美人スタッフが一人いたが、

仕事はときどきしかやってなく、ほとんど日本にいた。


Nさんは僕より20歳年上だが、何故か気があってすぐに親しくなった。

自由な人で、体験からの話が面白かったし、勉強にもなった。

一人暮らしの彼の日本の家に遊びに行くと、秘密の宝石の部屋があって、

(僕は何度も彼の家に泊まったが、この部屋には入れてくれなかった)

その部屋から色々な宝石をもってきては見せてくれた。

「これは○十万」「これは○百万」「これは○千万」

「これはオークションにだせば一億にはなる」なんてことを言っていた。

金額的な価値はよくわからなかった、でも「お〜綺麗だ〜」と思った。

彼の持論は、ダイヤモンドは世界でいちばん多く採れる宝石、

だから希少性はない、というもの。

なのでかれは色石のみ集めていた。スリランカで採掘するだけではなく、

ミャンマーやブラジル、ロシアまで買い付けに行ったと言っていた。


その頃彼はラトナプラの自分の鉱山で年に2回程度、

宝石採掘ツアーなるものをやっていて、僕は4回そのツアーに参加した。

スリランカは遠くて、当時内戦状態で少し怖かったが、

彼の鉱山の宿泊地周辺は安全で、自然がいっぱいで空気が澄んでいた。

寝泊りするのは小さなというより窮屈な山小屋だったが、

子供の頃の秘密基地みたいで懐かしい思いがした。

夜は星を見上げ、土の上で寝ていると、

蠍がでるから山小屋で寝ろと怒られた。

毎日毎食カレー。仏教の国なので肉はなし。

森のバターといわれるアボガドが上に乗ったカレーが一番美味しかった。


宝石採掘は楽しかった。

実際に採掘の作業をするのはこのために雇われた現地の人たちで、

その人たちのうち誰が採掘したものを自分のものにするかという

ギャンブルだった。市場価格数百万の宝石を当てる人もいれば、

まったくのゼロの人もいた。

僕はいつも同じ少年を選んだ。

まだ12、3歳のいつもにこにこ笑うかわいい少年だった。

彼の家まで遊びに行って仲良しになったのだが、

名前はわすれてしまった。


地中深く彫られた穴から取り出す土砂を、少年が大きなザルに受け、

それを近くの人口の水たまりで洗い小さな石ころだけにして、

その石ころを指先に挟んで太陽に透かし、

透明で色のあるもの、これが宝石の原石。

ニッとわらい少年がそれを僕に手渡してくれる。

ザルの中に毎回1〜3個の原石があった。

その中から価値のありそうな原石だけ研磨してもらい、

きらきらの宝石にしてもらう。

4回の宝石採掘ツアーで30個くらいの原石がみつかり、

そのうち研磨してもらったのは10個くらい。

2個ほど残して、

あとはその頃縁があった人たちになんとなくあげてしまった。

残した2個は、

クリソベリルキャッツアイとアレキサンドライトキャッツアイ。

僕はキャツアイやスターがでる宝石が好き。

石の表面に浮かび上がって揺れる白い線が、生きているって感じがする。


アレキキャッツはリングにした。この宝石は、

太陽の光では緑、人口の光に当てると赤になる魔法の石と言われている。

実はこの石は原石のときにNさんから

100万円で買いたいと申し出があった。

研磨してみないと宝石の価値はわからない。

とくにキャッツアイが出る石は、

綺麗な1本の線がでないと価値は低くなる。

でも僕はアレキキヤッツの原石が気にいった。

この石が売らないで〜と言っていた、ように思った。

研磨してみると、

残念ながら綺麗なキャッツではなかったが人口の光で赤色になった。

価値としては100万にはまったく届かないが、とても気に入った。

なので19年間ずっと毎日指につけている。


Nさんと知り合った頃は僕はまったく畑の違う仕事をしていたのだが、

今は、あのとき、「お〜綺麗だ〜」と思った石の仕事をしている。

宝石(貴石)ではないが、

半貴石といわれるパワーストーンを商品にしている。

Nさんとの出会いがなければ、石を扱うことはなかったと思う。

だから彼に出会えたことを感謝している。


「女性は何歳になっても女性。だから70歳でも80歳になってもピンクが大好き」

「歳をとり異性に興味をなくしたら、人は3年以内に死ぬ。だから恋心が沸くうちは人は死なない」

「日本人の男は働きすぎ、仕事しか知らない。定年退職したらやることがない。だから今のうちに遊び方を覚えておけ」

こんなことをNさんは言っていた。

自分の体験を面白おかしく話してくれた。この3つは今だに覚えている。


いろいろあって、Nさんと疎遠になり、連絡先もわからなくなった。

たぶんお金持ちだったNさん。

でもお客さんよりいい格好はしてはいけないということで、

服も車も家も普通だった。ふつうのおじさんだった。

ただいつもしていた指輪だけは、そっと教えてくれた。

「これだけは高い」


元気でおられるだろうか。いつかまたNさんの話しを聞きたい。

「宝石の原石」

「キャッツがクッキリでるクリソベリルキャッツアイ」

「指輪にしたアレキサンドライトキャッツアイ」

「ライトを当てると赤になる(オレンジかな)

↓聖獣ー翡翠ペンダントトップ7点掲載しました。
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