トンボ

コーヒーショップのテラス席で寛いでいると、上の方からポトリと何かが落ちてきた。

それは、少し大きめの緑がかかった灰色のトンボだった。

仰向けになって動かないでいる。

あー死んでしまったと思ったが、

そのうち足をゴニョゴニョと動かし始めた。

頑張れーと心のなかで念じたが、

寿命なら無理して頑張らないでいいよとも思った。

でも、トンボは仰向けの状態で羽をブルブルと震わしはじめた。

ひっくり返るために、何度も何度も羽を震わした。

お手伝いしようかなと思ったがしなかった。

きっと自力でひっくり返りたいはずだ。

瞬間、よっこらしょと上体を腹筋運動のときのように起こしながら羽を震わし、

やっとの思いで仰向けから逃れ、飛び立てる姿勢に入った。

見事な身のこなしに、すごいと言葉が出た。

トンボは生きたいのだ。

でもトンボは飛び立とうとしない。

もう無理なのか、それとも呼吸を整えているのか。

じっと見守っていたら、なんとトンボは最後の力を振り絞ったのか、

ビュンという勢いで地べたから大空へ飛び立っていった。

目の前で感動のドラマを見せてもらった。

 

目の前で起きたことや、たまたま遭遇したことに

何でも理由をつけたがる僕は色々考えた。

トンボは変化変容のシンボル。そしてご先祖様の魂が宿っているとのこと。

死にかけたトンボが地べたであがき続け、やっとの思いで蘇生する。

生まれ変わるぐらいの大きな変化を求めて上空に舞い上がる。

おーいいではないか。大きな変化が待っているということか。

ご先祖様もきっと応援してくれる。

と、勝手に思い込み、フフフと薄笑いをする。