山椒は小粒でもきりりと辛い

「あなたの目標はなんですか?」

先日、テレビの番組の中で若き実業家が、こんな質問を受けていた。

彼は即座に「もっと人に喜んでもらって、全国制覇!」と言った。

生き生きとしていた。


そのときふと思い出した。25年も前のこと、

ある大手の証券会社の営業の人に同じことを尋ねられた。

「社長の目標はなんですか?」

僕は思わず「心の平安・・・・・」と言っていた。

そのあとの会話はあまり覚えてないが、たぶん呆れていたと思う。

彼は上場をお手伝いしたいと言っていたのだが、

その後二度と来なかった。

普通はこのような質問には、会社を大きくするとか売上の増大とか、

わかりやすく、目に見える形で答えるのだと思うが、

そのときの本心は冗談ではなく心の平安だった。


その頃はまだバブルの余韻を残していた。

時流に乗って会社は絶頂期で、考えなければならないこと、

しなければならないことでいっぱいだった。

情けないが人に喜んでもらうためにそうしていたのではなく

他人の目を気にして、人の評価が気になって、がんばっていた。

自信を持つために、人の賞賛が必要だったのだと思う。
(あぁーなんてもったいない時間を過ごしていたのだろう)


人目や評価を気にしていたら、自分のことで頭がいっぱいになって、

他人のことが見えなくなる。

思いやりや、ふとした優しさや、

相手の状況や状態を察するということができなくなる。

なにより自分で自分のことを窮屈な籠の中の鳥にしてしまう。

自分のことを認めるのは自分。

自分の良いところもダメな部分も受け入れるのは自分の役割で、

他人のすることではない。

このことに気づくのにずいぶん時間がかかった。


心の平安を求めるようになって、自分の正体を探るようになった。

そして徐々に気づいていった。

組織向きではないということ。

大きいことより小さなことに安心や喜びを感じるということ。

非日常より日常に変化や楽しみを求めるということ。

本性は怠け者であるということ。


あの質問を受けてから25年たった今、

願い通りというか身の丈通りというか、

今だに社長はやってはいるが、

小さな小さな会社で優しいスタッフに囲まれ自由にやっている。


こんど質問を受けたらこう答えよう。

目指すは「山椒は小粒でもきりりと辛い」。小さいことはいいことだ。